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【関西学院の広報事例】初めての全学校説明会新たな場から得たもの、見えてきた課題

 関西学院 西宮上ヶ原キャンパス。建築家ヴォーリズが手がけた建物と緑が織りなす景観も美しいこの場所で、初の全学校説明会が開催された。各学校が同じ場に集い合う、またとない機会。一貫教育を掲げる総合学園として、何を伝えたかったのか。企画の背景や、開催までの道のり、次回に向けた課題などをうかがった。関西学院の現在地と未来とは。

なぜ今「全学校説明会」なのか 学校間の壁を超えた前例なき挑戦

 幼稚園から大学・大学院まで全9校。関西学院は言わずと知れた総合学園だ。「これまでは各学校で発信活動をし、受験生募集にも取り組んできました。広報もそれぞれの学校が行ってきたんです」そう振り返るのは教育連携部長の矢橋氏。

 教育連携部は2024年に生まれた新しい部署だ。意外にも、学院全体で対外的な活動を取り仕切る組織はそれまでなかったそう。新設の背景を矢橋氏はこう語る。

 「少子化を迎え、関西学院ならではの一貫教育の価値や魅力をさらに高めていくためには、学院・全学校の教職員が一丸となって『どのような人を育てていきたいのか』を考え、具体的な言葉で表現し、共有していくことが欠かせません。ですから部署の発足を機に、学校間のコミュニケーションがより活性化されるような仕組みを考えてきました。各校間の連携が強化されることで、結果として9校それぞれの魅力が一層、際立つことを目指し、さまざまな取り組みを進めています。そしてまた、私たちの活動内容を積極的に社会にも広く発信していきたいと考えています」

 そのアウトプットの場として2026年6月、初めて開催されたのが「全学校説明会」だ。準備期間におよそ2年を費やした。主導は教育連携部。新たに生まれた部署の、新たなチャレンジのはじまりだった。

約2年の準備期間を通して より強く深化した9校の一体感

 全学校説明会は、おおまかに分けて2部で構成された。関西学院の考え方や一貫教育の具体像を伝える「全体会」と、希望に応じて各学校説明会に参加できる「個別プログラム」だ。

 会の設計について矢橋氏は「全校が集まる場です。各校長が時間を割いて一堂に会する機会は、なかなかありません。だからこそ、単なる『個別説明会の集合体』にはしたくないという思いが強くありました。これには各学校の皆さんにも共感いただき、全体会と個別説明会という形式は早い段階で合意できたんです。総合学園としての発信をしながら、複数の学校の説明会を聞きたいというニーズにも応えられる形だったと思います」

 大きな流れは決まっても、実現に向けては苦労がつきもの。「まず全学校が対象ということは、ターゲットが広くなる。未就園児とその保護者から高校生まで、幅広い世代が来られます。誰にフォーカスして何を訴えかけるのかなど、各学校で考え方が違って当然です。それぞれの立場を理解しながら調整するのには時間がかかりました」

 学校間の連携促進こそ、教育連携部の使命だ。矢橋氏は続ける。「自分たちの役割は『目に見えない仕事』。学校同士・教職員同士の関係をどう深め、内部をいかにつなぎ合わせていくか。コミュニケーションの土台を整えられれば、必ず前に進める。そう信じていました。外には学校間の連携を示し、中では『一緒につくっていこう』と働きかけることで、関係を深めるねらいも、もちろんありました。何度も会議を重ねていく中で、インナーコミュニケーションにおいては効果があったと実感しています」内部の連携を密に取り、万全を期して進めるも、どうしても初開催のイベント。想定外のことも当然あったという。

学院の考え方や一貫教育を伝える全体会と、各学校に分かれて行う個別プログラムの2部構成で実施された。

申込受付から1週間で満席 集客成功がむしろ課題に

 ホームページで申込受付を開始したのは開催日の約2か月前。当然ながら周知活動は、さらに前から精力的に進めていた。

 事前の広報活動について矢橋氏は「特設サイトを開設し、各学校のホームページにも掲載しました。加えて、チラシもつくり、近隣の進学塾に配布をお願いしたりも。それだけでなく、内部の関係者にも働きかけましたね。保護者のコミュニティでもある後援会や同窓会支部の行事があればチラシを持って出向き、ご案内しました」

 オンラインに限らずアナログ手法も生かし、持てるリソースを存分に活用して申込受付の日を迎えた。受付開始後も集客に注力し、開催日を迎える想定だったが、日を置かずに満席となる。嬉しい悲鳴とはこのことと思いきや、これこそが来年に向けての課題だと矢橋氏は言う。

 「多くの方が高い関心を持ってくださったことは本当にありがたく、安堵しました。しかし、申込を早々に締め切らざるを得なかったために、ご来場いただけなかった方には申し訳なく思います。一方で、申込後にご都合が悪くなったなどの理由でお越しになれなかったケースも一定数ありました」そのため、ダイジェスト動画を作成し、開催後に公開するなどの対応もあったという。

 関西学院への関心の高さがうかがえる一方で、次回に向けた改善策が求められる。矢橋氏は「事前告知については広報部とも練り直したいと思っています。申込受付のタイミングについても他校のイベントや合同説明会の動向なども見計らって調整する必要がありますね」見えた課題は乗り越える。矢橋氏の目が語っていた。

受験対策か、理念の浸透か 期待値が交差した解の模索へ

 開催当日。全体会はパイプオルガンの音色に包まれながら、参加者全員による礼拝から幕を開けた。「キリスト教主義による全人教育」を掲げる関西学院らしいはじまりだった。その後、スクールモットー「Mastery forService(奉仕のための練達)」を根底とする一貫教育の価値などが中道基夫院長から語られ、各学校の校長によるディスカッションへと続いた。

 関西学院を貫くコアスピリットをしっかり届けようとする思いは伝わったものの、参加者とのギャップもあったと矢橋氏は分析する。「お越しくださった方の感想の中には、雰囲気が重かったというご意見もありました。

 私たちが思っていた以上に志望度の高い皆さんが来られていたので、そうした方々からすると少々、堅苦しい内容だったかもしれません。受験がないメリットや内部進学率、試験の出題傾向の解説などを期待されていたようにも思います。もちろん、入学試験に関わる直接的なお話をすることも十分に可能です。しかし、それはすでに各学校説明会でしていること。全9校が集う意味を考えると、学院として伝えたいことからはじめるというのは、最初の一歩として適切だったと思います。だからこそ、各学校がひとつになって前向きな気持ちで進められたんです。ただ、私たちの思いがどう伝わったのかという検証も必要。いただいた感想は誠実に受け止め軌道修正し、来られる方の感覚にチューニングしていくのも今後の課題だと感じています」

 保護者には受験に有益な情報が求められていると把握しながらも、伝えたかった関西学院の「芯」。矢橋氏に深く聞いてみた。

偏差値や就職率では伝わらない関西学院のゆるぎない核心

 「関西学院の魅力とはなにか。突き詰めるとやはりスクールモットー『Mastery for Service(奉仕のための練達)』なしには語れません。関西学院で大切に受け継がれ、教育の根幹を成しています。ただ、英語ということもあり、なかなか覚えてもらえないのですが」と矢橋氏は苦笑しながらも、口調には熱が込められた。「一度聞いただけでは理解が難しいのですが、どこまで他者を意識できるのかというのが重要なところ。一生懸命に努力して勉強して知識を蓄えるのは誰のためか、目的は何なのか。社会や困っている隣人に対して、自分の力やスキルを使ってどう貢献できるかを考え、追求していくことなんです」

 矢橋氏は以前、関学生の就職支援に携わっていた。その際も、スクールモットーがベースにあったという。「社会を前にして『何をしたいのかわからない』『自分に向いている仕事が見つからない』と悩む学生たちが多くいました。自分のしたいことは?活躍できる場所は?と自分軸で考えると答えは見つかりにくいものです。そこで『Mastery for Service(奉仕のための練達)』に立ち返ってみようよ、と。世の中にどう貢献できるかという視点でも考えてみることをアドバイスしてきました」

 関西学院での学びを通じて、自分はどう社会の役に立てるのかという視座が育つ。「内部進学生ほど反応はビビッドでした。『そうか。自分にはスクールモットーがある。考える軸があるんだ』と。体感として理解してくれることが多かったですね」また、矢橋氏自身、卒業から月日を重ねた今でもスクールモットーが生きているという。年代を超えて通じる考え方だと。「小学生、大学生、社会人では捉え方も変わります。貢献できることも違ってきますよね。でも人生のどのフェーズにおいても戻ることのできる『根っこ』になっていると実感しています」

 一貫教育を通じて「生き方の根」を育む。そこに共感してこそ、受験を考えてほしいという熱意が矢橋氏からは強く感じられた。

垣根を低く、よりオープンにファンを広げる場づくりを目指して

全学校説明会は当初から受験対策の企画ではないと矢橋氏は強調する。「どんな人も気軽に来られるイベントにしたかったんです。『関学のキャンパスに入れるの?ちょっと行ってみよう』と気負いなくお越しいただき、フラットに関西学院を知ってもらおう、と。ご近所さんも大歓迎ですし、卒業生だったらお子さんやお孫さんと一緒にきて『自分の通っていた頃と違うなぁ』と今の雰囲気を味わいに来てくれてもいい」対象者は幅広く。

 その方針は今後も変わらない。「初開催は志望度の高い方が多かったですが、もっとライトな感覚でお越しいただいて構いません。多くの方に関西学院を知ってもらい、受験を考えてくださるなら各学校説明会へという流れをつくりたいですね」一方で「関西学院の教育価値」を研ぎ澄ませていくことも重要だと語る。「少子化によるダメージは避けられません。関西学院の教育を本当に求めている方に入学いただけるよう、学院全体での発信を続けていくことは欠かせないでしょう。『関西学院だから学びたい』と心から望まれ、選ばれる学校であり続ける必要があるんです」

 間口を広げファンを増やすこと、学院全体として伝える教育価値を明確にしていくこと。両輪をバランスよく走らせていくことは簡単ではないかもしれない。そして、参加者の期待や求める情報をすくい上げながらも、全9校が集まり伝えたいことをいかに届けるか。着地点をどこに見い出すのか。初の全学校説明会は大きな手応えとともに、考えるべきテーマももたらした。「同じことはしない。変わり続けます」と矢橋氏は力を込める。

 初開催の手応えと新たに見えてきた課題。次回に向けて、関西学院はすでに動き始めている。

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