【NEWS】学校広報専門誌「図画広報」Vol.3発行 ▶︎

【大阪信愛学院小学校の広報事例】学校の日常を「価値ある広報」へ昇華 教員同士が支え合い、届ける想い

 大阪市城東区にある大阪信愛学院小学校。1884年の学院設立以来受け継がれてきた教育を土台に、「賢・謙・健」の3つの「けん」を教育の柱としている。日常的な連携が継続的な発信を支える同校の広報。その取り組みをたどるとともに、新たに掲げた「点数よりも、大切なこと。」を、今後どのように教育と広報に生かしていくのかを見つめる。

変化する私立小学校の募集環境 管理職と教員がともに担う広報へ

 時代とともに、私立小学校の募集環境も変わってきた。過去を知る学校関係者は皆、実感していることだろう。「昔は情報発信に力を入れずとも児童が集まりました。私立小学校は取り立てて募集活動をしていなかったのではないでしょうか」そう振り返るのは、大阪信愛学院小学校で教頭を務め、入試広報部を率いる村上氏。校長をはじめとする管理職がパンフレットを携え幼稚園や保育園を訪問するのがかつてのスタンダードだった。

 SNSが広がり、コミュニケーションの手法が変わり、管理職に限らず現場の教員にも広報の役割が求められるようになって久しい。大阪信愛学院小学校でも入試広報部を設け、教員中心に日々の広報活動にあたっている。

右も左もわからないままのスタート 今ではまるで「部活」の雰囲気

 現在の入試広報部は、担任を持たない専科の教員と校長・教頭を含め、10名体制で運営している。メンバーの多くは広報未経験。「それまでは、体育ひとすじ。学校に広報という業務があることも知りませんでした。右も左もわからないまま、今でも試行錯誤です」と言いながらも笑顔を見せるのは、担当して約7年の森島氏。「まるで『部活』なんです。学校見学会やテスト説明会など、月に1回は広報イベントを実施しているのですが、体験授業を行う時は事前に集まってシミュレーションして意見を交わし合い内容をブラッシュアップしたり。本当に風通しのいいチームなんです」

 専科の教員だからこそ、それぞれの得意分野がある。「音楽の先生は、来校してくれた子どもたちを楽しませようと即興でピアノを弾いてくれたこともありました。私の場合『体を動かしましょう!』と簡単な体操をしたり。パンフレットやチラシ制作では図工の先生からデザイン面のアドバイスをもらえます」一人ひとりの広報歴に関わらず、多彩な専門スキルを活かしながら運営に携わっている。

 定例会議は基本週1回、1時間ほど。10名全員が集まれない日もある一方、イベント前には不定期で深く打ち合わせることもしばしば。ミーティングを形式化せず、柔軟な意思疎通を大切にする姿勢がうかがえる。

校舎を歩けばネタに当たる!? 学校の素顔をそのまま届けるSNS

 今の学校広報には欠かせないSNS。大阪信愛学院小学校がインスタグラムを始めたのは約2年前のこと。きっかけは森島氏の呼びかけだった。

 「『やらなくちゃ!』という熱い使命感やSNSへの知見があった訳でもありません。それでも、皆さん賛同してくださって。知識ゼロからスタートしつつ、平日は毎日投稿しています」

 アップする情報に困ることはないと断言されたのにも驚いた。「日々いろんな先生から『見に来てください!』と声をかけてもらえます。でも、7割は偶然に出会ったもの。自分の授業の合間、スマートフォン片手に校内を歩くのですが、おもしろそうな授業がいっぱいあって。お手伝いも兼ねて軽く飛び入り参加のつもりが、気がついたら1時間いた、なんてこともしょっちゅうです」森島氏自身が夢中になって子どもたちと触れ合う中で、初めて捉えられる素顔がある。構えずに、学校の日常をそのまま切り取る。それは、等身大の発信を続けられる環境が整っているからとも言えそうだ。森島氏がSNSに携わっていることが校内でも周知されており、教員同士で気軽に声をかけ合う。日頃の円滑なコミュニケーションがベースにあるからこそ、毎日のSNS発信も無理なく続けていけるのではないだろうか。

目線は、在校生の保護者に画面を通じて「授業参観」の喜びを

 「受験生を集めるためではないんです」と森島氏はきっぱり。SNSの投稿基準は「おうちの人が見たいだろうなと思ったもの。『見て笑顔になるポスト』と決めています」と語る。保護者は行事予定を知ってはいても、子どもがどんな表情で過ごしていたかはわからない。そんな気持ちに寄り添い、ホッと落ち着く投稿を心がけているそう。「SNSを通じて授業参観のような体験を届けられたら。自分の子どもと違う学年の情報でも『来年はこんな行事があるみたい』『昨年はうちの子も楽しみにしていたよね』とご家庭で話題になったら嬉しいし、それが私のモチベーションにもなっています」

 投稿がきっかけで、家族がつながっていく。「本来の広報とは違うかも知れません。だけど『あたたかな広報』でありたい。お預かりしているお子さんとご家族への姿勢、大切にしている気持ちは、きっと未来の保護者さんにも伝わると信じています」

 未来を見据えながらも、目の前の子どもたちと保護者に寄り添う。投稿された動画や添えられた文章から、学校が誰を想い、何を重要視しているのかが伝わってくる。それは受験校を選ぶ際の強力な判断材料になってくるだろう。

 「まず『好き』になってもらえたら」と森島氏。大阪信愛学院小学校のSNSは、あたたかさで未来の保護者の心を動かしているに違いない。

担任の先生はクラス運営に集中を 教員同士の信頼が支える好循環

 4月、森島氏が全教員に伝えることがあるという。「『外』への広報は入試広報部が頑張ります。担任の先生は『中』でしっかり学級運営をお願いします」担任の教員が、より良い学級を目指し研鑽しているからこそ、広報はありのままの姿を飾ることなく発信できる。

 「中」の教育において、大阪信愛学院小学校には「3つの『けん』」が根幹にある。賢(かしこく)、謙(あたたかく)、健(たくましく)。授業や行事、さまざまな活動が「3つの『けん』」に準じて進められている。例えば「謙」では、上級生と下級生が交流する「たてわり仲良し活動」が挙げられる。年上の児童から「思いやり」を受け取ることで、自身も下の子たちと接する姿勢を学んでゆく。オープンスクールでは、訪れた園児と在校生が触れ合う機会も設けているそう。「在校生たちの様子や受け答えが評価されたり、『お兄ちゃん・お姉ちゃんと一緒に遊べて楽しかった』『また来るのが楽しみ』と言ってもらえるのが嬉しくて」と村上氏は目を細める。森島氏は「ひとりっ子の親御さんからも『たてわり』はありがたいとお声を頂戴します」と言葉を継いだ。

 校内に根づく、たてわり文化を「外」にも発信し、オープンスクールでは実際に体感してもらう。来校者と交流する児童の姿そのものが、日頃の教育による価値を伝え、保護者にも届いている。自校の文化を押し付けることなく、自然に感じてもらう仕組みが整っており、来校者からも評価は上々。入試広報部としても確かな手応えを感じているようだ。

私立小学校を選ぶ価値とは? 伝えたい「点数よりも、大切なこと。」

 SNSやブログでの情報発信、見学会などのイベント実施、合同説明会への参加…精力的に活動しながらも、依然として課題は残る。「そもそも私立小学校の良さが認知されていないように思います。地元の公立でいいという方も多い。小学校に私立があることを知らない方もいらっしゃる。選択肢に挙がるには、どうするか。幼稚園や保育園を訪問しても親御さんには会えませんし、どこで・誰に・何を話せばいいのかは悩ましいですね」と語るのは村上氏。

 今も昔も口コミの影響が大きく、学校ごとの知名度やブランド力も無視はできない。そんな状況で村上氏が願うのは、子どもに合った学校選びだ。「多様化の時代です。お子さん一人ひとりに個性があります。どこの私立に合うのか、学校名だけではわかりません」数値にならない魅力をそれぞれの学校が持っている。今年、大阪信愛学院では「点数よりも、大切なこと。」を新たなメッセージとして掲げた。「小学校としても、入学前に受験の知識を詰め込むより、自然に触れたり読み聞かせをしたり、親子でたくさん体験して欲しいと伝えています。そういう子どもたちはいろんなことに興味を持ち、ワクワクしながら成長していく。6年間でぐっと伸びていくんですよ」窓の外を走る子どもたちを見ながら、村上氏は話す。その目には、受験のその先、入学後の児童の変化に重きを置く、学校の価値を真摯に伝えていこうとする熱意が宿っていた。

 「点数よりも、大切なこと。」を掲げたことで、教員たちの焦点が定まった。児童の成長をどう捉えるか、広報で伝えるべき価値とは何か。共通言語が「ものさし」となり、教育・広報の両面において、ブレない活動が今後ますます強化されていくのだろう。

 最後に村上氏は「学校としては『ありのまま』の質を高め続けなければいけません。変化の大きい時代に、どのような教育が求められるのか。時代を見据え、考え、変わるべきところは変えていきます」と力強く締めくくった。

 広報はテクニックだけでは語れない。正解も見えにくい。その中で、大阪信愛学院小学校から見えてくるのは、教員同士のなめらかな関係性や、共通認識として持っている想いの大切さだった。日頃から垣根を越えて声を交わし、共通言語を意識しながら実践する。人がつながり、紡いでいく広報が、ここには確かに息づいている。

目次