
創 立:1952年
児童数:385名(2025年4月現在)
所在地:奈良県奈良市学園南3丁目1番3号
広報体制:5名
制度と文化でブランドを育てる、帝塚山小学校が示す信頼のつくり方
奈良市・近鉄学園前駅と直結する便利な立地に、幼稚園から大学までを擁する帝塚山学園が広がる。その中で1952年の創立以来、地域とともに歩んできたのが帝塚山小学校。今回は、同校で入試広報部長を務める田中葉子氏にお話を伺った。さらに理科主任の吉川澄人氏にも取材し、広報の取り組みを多角的に見つめた。
通学の不安を安心に変える、入学初日から始まる通学制度
「私学への入学を検討されているご家庭の一番の不安は、通学なんです」帝塚山小学校で入試広報部長を務める田中氏はこう言い切る。学区の制限がないため、遠方から通う児童も少なくない。そこで同校では、近くに住む上級生が新入生を教室まで連れてくる通学制度を設けており、「入学式の翌日から、必ず上級生が付き添います」と強調する。入学前に担任がすべての家庭を訪問し、利用する駅や通学経路について丁寧に確認。そのうえで、入学式までに近隣に住む上級生を新入生に紹介している。

駅を降りればすぐ学園という立地の良さと、先輩に手を引かれて通学する安心感。この組み合わせが保護者の心を和らげる。さらに、放課後の過ごし方への関心が高まるなか、お預かりと習いごとを組み合わせた放課後プログラムも展開。サッカーやダンスなどの運動系から、囲碁や学習塾などの学習系まで揃え、児童の通学から放課後までの一日全体を支える環境を整えている。教育内容はもちろんだが、こうした制度や再現性のある取り組みが、同校が選ばれる理由の根幹といえる。そしてそれらは、常に保護者の課題に真摯に向き合う姿勢の中から育まれていることが伝わってくる。

根っこを育てる教育、深く・太く・広く
同校が大切にしているのは、『根っこを育てる教育』である。ここでいう根っことは、子ども一人ひとりが人としての基盤を築き、人生を切り拓くための軸を持つことを指す。「ポキっと折れてしまうのではなく、大変なことがあっても、しなやかにたわみながら自分の考えを持って切り開いていける力を育てたい。そのために基礎を徹底して固めています」と田中氏は話す。三つの方向から育まれる根っこ、まずは深く考える力である。その代表的な取り組みがモジュール学習だ。始業前の短い時間に全学年が集中して学習に取り組み、繰り返しによって基礎を確かなものにしている。
次に大切にしているのは、心を太く磨く力である。ここで重視しているのは、共感力を高めること。「当たり前のことをきちんと積み重ねていくことで、心は育っていきます」と田中氏は話す。そのため、挨拶や整理整頓、掃除といった基本的な生活習慣を繰り返し徹底している。たとえば掃除の時間は、自分の教室を掃除するのではなく、縦割りグループで割り当てられた場所に集まり、6年生から掃除の仕方を教わるという。6年生は自然と統率力を身につけ、下級生は先輩に導かれながら学んでいく。入学初日から始まる通学制度もまた、心の太さを培う象徴的な取り組みのひとつといえる。
最後は、本物にふれ可能性を広げることである。理科主任の吉川氏が力を込めて語る分野でもある。「体験するだけでは足りません。本物に出会い、その場で考え、伝えることで学びは深まります。その代表的な取り組みがお知らせ学習です」と吉川氏は話す。子どもたちは自然の中で見つけた葉っぱや石などを持ち寄って発表し、観察力や思考力を磨いていく。「発表の中で、わかった!という瞬間に、自然と友達へ伝えたくなる姿は学びの証です」と吉川氏は続ける。年間におよそ150回行われる発表は、聞く力や質問力を育て、探究心を広げている。その内容は廊下に掲示され、訪れる人とも共有されることで、学びはいっそう深まる。

40年続く『5年生の八百屋』と、新たな挑戦『ポップコーンプロジェクト』
こうして積み重ねられた学びは、具体的な活動へとつながっている。その代表例が、40年続く伝統の『5年生の八百屋』と、近年新たに始まった『ポップコーンプロジェクト』である。5年生が主体となり、校内イベントで野菜を販売する活動に加え、栽培・収穫したとうもろこしをポップコーンに加工し、販売できるカタチに整えている。畑には300本ものとうもろこしが植えられており、見応えがある。
子どもたちはさらにパッケージデザインや販促を考え、クラス内での発表から選ばれた2つの案が、ひとつのパッケージの両面に採用される予定である。こうした校内での取り組みは、同学園の大学教員や企業との連携によって、子どもたちの学びをより実践的なものにしている。特筆すべきは、環境教育へのこだわりだ。このプロジェクトで出た廃材を再利用し、パルプ使用量を抑えたサステナブルな紙を採用。この紙は翌年度から全校児童が使う『帝塚山ノート』の表紙にも用いられる予定で、子どもたちの学びたい気持ちを引き出していくことが期待されている。
「これは農業体験や販売体験にとどまらず、環境教育やキャリア教育、探究学習へとつながっています」と吉川氏は話す。先生方もまた、教科の枠を越えてこの取り組みを支えている。

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広報は数年先の信頼を育てる仕事
吉川氏は、広報を特定の部署だけに任せるものではないと考えている。「すべての教員が広報的な視点を持つ必要があると思っています」と話す。ここで言う広報的視点とは、ただ学校を宣伝するための姿勢ではなく、日々の教育活動の中から、これは面白いと思える価値を見つけ出す感性である。「私自身が面白いと思えるものを見つけてくること。それが子どもや保護者に響き、結果的に広報としても大きな価値を持つ」と吉川氏は続けた。こうした考えの根底には、成果を短期ではなく中長期で捉える姿勢がある。
田中氏も「良い影響も悪い影響も2~3年後に表れる」と話す。その視点は、コロナ禍での方針にも現れた。「コロナ禍では外部への発信を控え、在校生と保護者を第一に考えました。入学していただく以前に、いま通っている方に満足していただかないと本末転倒です」と田中氏は振り返る。広報とは、情報を一方的に届けることではなく、共感を広げていく営みである。同校の広報は、先生自身が面白いと感じる気持ちを出発点にしていた。
最後に田中氏は「公立・私立ともに選択肢が広がる今、子どもたちにとって本当にいい環境とは何かを、私学に携わるものとして共に考えていきたい。そして、広報担当者として、学校と未来を盛り立てる同志でありたい」と締めくくった。
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帝塚山小学校
入試広報部長
田中 葉子 氏
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帝塚山小学校
理科主任
吉川 澄人 氏
編集部より
保護者が感じる不安に寄り添い、安心という価値をどう設計し、どう伝えるか。帝塚山小学校の広報は、その問いに正面から向き合っていました。
ポイント
・保護者の不安を理解し、通学制度や放課後プログラムなど具体的な仕組みで「安心」をカタチにしている
・教育理念を、学習習慣や掃除・縦割り活動・体験学習など、再現性のある実践として可視化している
・教員一人ひとりが広報的視点を持ち、数字では測れない「面白さ」や「気づき」を日常から見出している

