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【実務ノウハウ/グラフィックデザイナー】伝えたいことがきちんと届く、学校広報をデザインする。


041Design 玉岡 真有美 氏/グラフィックデザイナー

学校広報の現場にいると、どうしても「受験生や保護者に届いているのか」という問いに意識が集中してしまいます。そのため、今回は多様な現場で試されている広報・デザインの事例を紹介し、学校広報を改めて見つめ直すきっかけにしたいと思います。

今回お話を伺ったのは、大阪と淡路島を拠点に、企業や行政のパンフレット、ロゴ、広告物などを数多く手がけてきたグラフィックデザイナーの玉岡 真有美氏。彼女が日々大切にしている『伝えたいことが、きちんと届くデザイン』という姿勢は、教育の世界にも通じるヒントに満ちていました。学校という枠組みをひとまず外して、生活者としての視点で広報を捉え直す。その先に、より確かな届く広報の設計図が見えてくるはずです。

伝わるデザインは、人の行動を後押しする

 「伝えたいことが、きちんと届くデザイン」これは私がいつも大切にしていることです。デザインというと、まずは見た目の美しさに注目されがちですが、それだけでは本当の魅力は届きません。そのため、誰に、何を、どんな順番で、どんなトーンで届けるのか。相手の立場や状況を想像しながら進めることがスタートラインだと考えています。

この考え方は、学校広報に限らず、地域や企業のプロジェクトでも同じです。たとえば、私が関わった町おこしプロジェクトでは、淡路島・草香の郷のみかん農家さんの段ボールデザインを手掛けました。このみかんは、地元の人が自分用に買うよりも、都市部を中心とした島外の方へ、お歳暮やお中元用として選ばれることが多いと聞きます。そこで考えたのは、何を届けたいのか。草香の郷には、澄んだ空気、美しい海と山の景色、豊かな自然といった地域そのものの魅力が溢れています。単にみかんを送るのではなく、草香の郷という場所の息づかいごと包み込み、イラストにして届けることにしました。

贈られた相手が箱を受け取った瞬間、送り主の想いと草香の郷の空気感がふわっと伝わる。そんなデザインであれば、購入を決める後押しになります。そこで贈答用にふさわしい上質感や特別感を持たせつつ、草香の郷の景色や温かみを感じられるパッケージに仕上げ、地域の魅力を包むギフトとして届けることにしました。結果として在庫は全て完売し、売り上げも5倍に伸びました。草香の郷の魅力が、多くの人に届いたことを物語る結果だと思います。

私の仕事は、まずお客様の思いをじっくり聞くことから始まります。誰に届けたいのか、何を大切にされているのかを一緒に整理し、相手に届くカタチへと変換する。デザインとは、ただ目に見えるものをつくるだけでなく、伝え方の設計をする仕事だと、私は考えています。

情報を絞ることで、受け手の行動スピードは何倍にもなる

この事例のように、相手がどんな状況で受け取るのかを想像することは、学校広報でも同じです。同じ情報でも、初めてその学校を知る人と、すでに関心を持っている人とでは、受け止め方がまったく違います。だから私は、見る人の状況や気持ちを想像しながら、届け方を考えるようにしています。私が意識しているのは、情報を整理し、確実に届けるという考え方です。つい全部盛り込みたくなりますが、情報を削ぎ落とし、核となる部分に絞ったほうが、受け手の理解も行動も早くなります。

大阪府城東区の福祉ビジョン制作では、以前の内容をゼロから見直し、情報やデザイン要素をすべて整理。イラストや図解で伝えたいことを明確に構成した結果、行政の方から「持ち帰ってくださる方が増え、これまでよりも早いペースで増刷が必要になりました」との声をいただきました。

見る人の状況を想像しながら情報を絞り込むことで、受け手にとってのわかりやすさに直結することを実感した事例です。どんな学校や人にも必ず『らしさ』や『強み』があります。それらの情報を整理し、受け手に合わせて優先順位をつける。これができれば、学校の魅力はより鮮明に届きます。

受け手の立場に立つことが、分野を問わず届くための共通のルール

母校でデザインの授業を担当したときのことです。最初は生徒たちがあまり話を聞いてくれず、少し戸惑いました。デザイン科の生徒ではなかったこともあり、デザインにはあまり興味がなかったのかもしれません。そこで翌日、服装や雰囲気をデザイナーらしいスタイルにパッケージし直して教壇に立ってみました。すると、それまで静かだった生徒たちから、積極的に声をかけてもらえるようになったのです。

これは、単に見た目を変えたという話ではありません。相手に届くカタチに整える。これこそが、デザイン設計の本質です。こうしたデザインの考え方は、広報物や広告だけでなく、日常のコミュニケーションなど、あらゆる場面で活かせると考えています。

目的を明確にし、積み重ねることが『らしさ』を育てる

自分たちの広報活動を自信を持って続けていくために、まず必要なのは目的を明確にすることです。そして『何を伝えるのか』『誰にどう感じてほしいのか』がはっきりすれば、迷いは減り、判断もぶれません。完璧をめざすよりも、まずは伝わることを意識する。その積み重ねが、きっと学校らしい広報につながります。

私にとってデザインとは、誰かの思いを確かに届けるための手段です。今回のテーマである『設計図』という言葉には、その想いがぴったり重なります。学校が持つ魅力を見つけ出し、確かなカタチで伝えていく。そんな広報を一緒に描いていきたいというのが私の想いです。

編集部より

同じ情報でも、伝える相手の状況を想像して、伝え方を整える。

それだけで、届き方が大きく変わるという好事例です。

どこまで相手の状況を鮮明に捉えられるか、そこが勝負の分かれ目になりそうです。

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